AENTRO Research
Initiation Report | 2026年4月28日
ナレルグループ9163
建設技術者派遣を中核に、IT技術者派遣を含む職人の人材紹介サービスを展開する持株会社
No Rating / No Target Price
TSE Growth
Stock PriceMarket CapFY2026/10 Rev (E)OPM (E)Dividend YieldROE (FY25)
¥2,281¥20.2B¥29,250M10.3%4.91%14.9%
項目FY2022/10FY2023/10FY2024/10FY2025/10FY2026/10E
売上高百万円14,54117,99521,60924,15929,250
営業利益百万円2,0402,4693,1112,8273,010
営業利益率%14.013.714.411.710.3
当期純利益百万円1,2431,7412,1882,0872,090
当期純利益率%8.59.710.18.67.1
EPS209.88255.16238.74238.88
DPS0.0095.00110.00115.00115.00

1. 会社概要

1-1. サマリー

ナレルグループの本質は、一般的な人材派遣会社ではなく、建設とITの「技術者派遣」を中核に据えつつ、未経験者を採用・育成して現場に送り出す内製型の供給装置を持つ、未経験者をプロ人材へ育成する仕組みを持つ企業である点にある。中核子会社であるワールドコーポレーションが10年以上かけて磨いてきた採用チャネルの自社開発、社内研修による戦力化、そして営業担当者の伴走フォローという3層の仕組みが差別化要因であり、その結果として業界平均を大きく上回る営業利益率11.7%(FY2025/10)を維持している。スローガンである「プロ人材に、なれる。成長社会に、なれる。」は、この供給サイドから人を作り出す会社像を端的に示している。

足元の連結業績は、売上収益24,159百万円(前期比+11.8%)、営業利益2,827百万円(同△9.1%)、親会社の所有者に帰属する当期利益2,087百万円(同△4.6%)である。売上は在籍人数・稼働人数の伸長を受けて過去最高を更新した一方、採用投資と営業・採用部門の増員を優先した結果、営業利益は計画(3,310百万円)に対して85.4%にとどまり、2期ぶりの減益となった。ただし営業利益率は11.7%と、人材派遣業界中央値3.3%を大きく上回る水準を確保している。

事業セグメントは「建設ソリューション」「ITソリューション」の2区分で、FY2025/10の売上構成は建設21,642百万円(構成比89.6%)、IT 2,515百万円(同10.4%)である。建設ソリューションを担うワールドコーポレーションの技術者在籍人数はFY2025/10末で3,687人、ITソリューションを担うATJCが430人で、両社合計で4,000人超の技術者プールを運営している。財務面では、IFRS適用下での自己資本比率58.9%、ネット有利子負債794百万円と、上場時以降にバランスシートを着実に健全化してきた企業でもある。

したがって同社は、建設・製造・ITの慢性的な技術者不足を背景に、外部から技術者を引き抜くのではなく、未経験の新卒・第二新卒を自社採用・育成して市場に供給することで収益を上げる企業として位置付けるのが適切である。投資家としての着眼点は、この供給装置の生産性—稼働率と退職率—が中期経営計画の前半期(FY2026〜FY2027)の成長投資を経て、どう再加速するかに集約される。

1-2. 基本情報

項目内容
正式名称株式会社ナレルグループ(Nareru Group Inc.)
本社所在地東京都千代田区二番町3-5 麹町三葉ビル3F
設立年月日2019年5月27日
代表者代表取締役 柴田 直樹(2026年1月就任、前任:小林 良〈現・取締役会長〉)
資本金420百万円(2025年10月末)
発行済株式数8,749,318株
決算期10月
上場市場東京証券取引所グロース市場(2023年7月21日上場)
証券コード9163
連結従業員数4,283人(2025年10月末、前期比+12.4%)
会計基準国際会計基準(IFRS)

出所:有価証券報告書より AENTRO Research 作成

基本情報から読み取れる同社の姿は、純粋持株会社として2019年に設立された比較的若い企業でありながら、すでに連結ベースで4,000人超の従業員を抱える人材インフラ企業だという点である。連結従業員数は直近4期で24.1%→21.3%→18.4%→12.4%の増加率で推移しており、直近期の増加率鈍化は主に稼働率低迷を受けた採用ペース調整の結果であるが、人員規模の絶対値は依然として拡大基調にある。

持株会社体制を採る理由は、中核事業の建設技術者派遣を担うワールドコーポレーションが2008年設立と歴史を持ち、一方でITエンジニア派遣のATJC、建設人材プラットフォームのコントラフトなど性質の異なる事業単位を横並びで運営する必要があるためである。単体の資本金420百万円は人材サービス業としては標準的な水準だが、純資産は連結で14,479百万円(FY2025/10末)まで積み上がっており、過去の利益蓄積が厚い。決算期は10月で、4月入社・10月入社を軸とする新卒採用サイクルに合わせた設計となっている。

1-3. 会社の定義

同社は、単なる派遣会社ではなく、未経験者を入口にして技術者を内製する供給装置を持つ人材インフラ企業である。人材派遣というビジネス自体は参入障壁が低く、業界中央値の営業利益率が3.3%に沈むコモディティ化した領域であるが、同社はそこに「採用チャネルの自社開発」「社内研修による未経験者の戦力化」「営業担当による現場伴走フォロー」という3層を重ねることで、FY2025/10実績でも営業利益率11.7%という業界水準を大きく上回るスプレッドを確保している。

この3層を事業の層構造として整理すると、最上層は顧客企業との営業・契約管理(派遣契約・SES契約・請負契約)、中間層は社内研修・キャリア支援による技術者の戦力化、最下層は自社採用メディアや職人紹介メディアを通じた求職者プールの獲得である。多くの競合が最上層の営業機能と中間層の一部しか持たないのに対し、同社は最下層の入口、すなわち未経験者を含む幅広い求職者層へのアクセスを自社資産として保有している点が構造的な優位となっている。

ビジネスの見方としては、同社は「技術者を派遣する会社」ではなく、「技術者を作り、派遣の形で供給する会社」と読むのが正しい。FY2025/10末時点で、建設ソリューションの技術者在籍人数3,687人、ITソリューションの同430人を抱え、両者合計で4,100人超の技術者プールを運営する。このプールは、単年度の採用実績1,985人(建設)と161人(IT)を重ねながら拡大しており、在籍人数の前期比+13.8%(建設)はそのまま翌期以降の売上基盤として繰り越される。派遣事業にありがちな「案件ありきで人を集める」モデルとは逆の、「人を作ってから案件に当てる」モデルが、同社の収益安定性を支える核である。

中期経営計画“Change and Growth 2030”では、この人材インフラの上に「建設DX支援」「職人紹介」という付加層を積み増す構想が示されている。派遣単体で見れば利益率の天井は見えているが、育成した技術者を起点に建設DX企業との協業やICTツール活用コンサルティングへ広げることで、顧客単価と事業領域の両方を広げる余地がある。したがって同社の会社定義は、建設・ITの技術者派遣を土台に、日本の「プロ人材」供給機能そのものを代替していく企業と整理できる。

1-4. 沿革

年月出来事
2008年4月㈱ワールドコーポレーション設立(建設技術者派遣、現・中核子会社)
2019年5月㈱ナレルグループ(当時:AP64)を持株会社として設立
2019年11月ワールドコーポレーションを株式取得により完全子会社化(のれん計上の起点)
2020年㈱ATJC(ITエンジニア派遣・SES)を取得しグループに編入
2021年商号を現社名「株式会社ナレルグループ」へ変更
2021年㈱コントラフトを設立(建設人材プラットフォーム)
2023年7月21日東京証券取引所グロース市場へ新規上場
2024年一般社団法人全国建設人材協会を関係会社化(非連結)
2025年10月FY2025/10実績:売上24,159百万円、営業利益2,827百万円
2025年12月中期経営計画“Change and Growth 2030”を公表(FY2030/10 営業利益50億円目標)

出所:有価証券報告書より AENTRO Research 作成

沿革の読み方としては、2019年の持株会社設立よりも、中核子会社ワールドコーポレーションが2008年から蓄積してきた15年超の採用・育成ノウハウが同社の競争優位の実質的な起点である点が重要である。2019年11月のワールド子会社化で計上されたのれんは、FY2025/10末でも14,074百万円と資本合計14,478百万円の0.97倍に相当するが、IFRS下で毎期実施される減損テストにおいて回収可能価額が帳簿価額を十分に上回り、減損の兆候はないと会社は開示している。

第2段階は、2020年のATJC取得による事業ポートフォリオの建設+IT二本化と、2021年の商号変更・コントラフト設立によるグループ体制整備である。この時期に「派遣」「職人紹介」「人材プラットフォーム」という性質の異なる事業を並列で持つ現在の構造が形成された。第3段階は2023年7月の東証グロース上場で、資本市場からの資金調達手段と開示体制を得ると同時に、連結従業員数・売上高ともに加速フェーズへ入っている。第4段階は2024年以降で、一般社団法人全国建設人材協会の関係会社化による職人紹介事業の本格化と、2025年12月公表の中期経営計画で示された建設DX・職人紹介を収益の第2・第3の柱として育てる方針である。

沿革の本質は、単発のM&Aを積み上げた多角化ではなく、「建設技術者派遣」という一本の軸から隣接する人材関連事業へ機能を広げてきた延長戦上にある。未経験者の採用・育成という中核能力を、建設領域の職人紹介、IT領域のSES、建設DX支援へと繰り返し再利用してきたのが同社の歴史である。

1-5. 経営陣

同社は2026年1月29日の定時株主総会および取締役会決議を経て経営体制を刷新した。創業以来代表取締役を務めてきた小林良氏が取締役会長へ移行し、専務取締役であった柴田直樹氏が代表取締役に就任した。意思決定の迅速化と中長期視点での経営監督の強化を目的とした体制変更であり、持株会社としてのグループ統括と主要子会社の現場経営を分担する構造は維持される。現在の取締役(監査等委員を除く)は小林良(会長)、柴田直樹(代表取締役)、瀬合康介、三井規彰の4名、監査等委員である取締役は羽鳥良彰、西村隆志の2名で構成されている。

持株会社の本社機能は東京都千代田区二番町に置かれる一方、ワールドコーポレーションをはじめとする事業会社は全国の拠点を通じて採用・研修・現場配属を運営する。この地理的分業が、FY2025/10のエピソードとして示された「首都圏での営業苦戦による稼働率低迷」のように、マクロの経営数字と現場の顧客接点との間のボラティリティを生む要因にもなっている。中期経営計画では、地方拠点に対するモニタリング体制の整備と、若手営業人材のスキル向上施策、ミドルマネジメント育成が重点取り組みとして示されており、経営体制の強化はコーポレート側ではなく事業会社側の営業・採用の現場力に焦点が当たっている。

1-6. 主要株主・資本構成

出所:有価証券報告書より AENTRO Research 作成

同社は2023年7月のグロース上場からまだ3年弱と歴史が浅く、上場時に株式を保有していた創業者・経営陣・ベンチャーキャピタルの影響が、資本構成の背景として引き続き意識される段階にある。発行済株式数は8,749,318株(2025年10月末)で、2026年4月23日終値2,343円に基づく時価総額は約20.8十億円と、東証グロース市場では小型株の部類に入る。株主資本比率はFY2022/10の49.3%からFY2025/10の58.9%へと5期連続で改善しており、上場後の利益蓄積と借入金返済による自己資本強化の方向性が数字にも表れている。

発行済株式数が800万株台と比較的少なく、時価総額も20十億円台という規模感は、同社の株価形成に2つの意味を持つ。第一に、浮動株が相対的に限られるため、機関投資家の新規組み入れや売却が株価に与える影響が出やすい。第二に、時価総額250億円超と明示的な目標がある訳ではないが、東証グロースの時価総額要件や流動性基準との関係から、中期的には時価総額を意識した成長戦略が取られやすい。配当利回り4.91%(2026年4月23日時点)・配当性向48.2%(FY2025/10実績)という水準は、グロース市場の小型株としては相対的に高く、株主還元の下支えとなっている。

1-7. コーポレートガバナンス

項目内容
上場市場東京証券取引所グロース市場
取締役体制取締役会長 小林 良、代表取締役 柴田 直樹、取締役 瀬合 康介・三井 規彰、監査等委員 羽鳥 良彰・西村 隆志
定時株主総会開催2026年1月29日
有価証券報告書提出2026年1月28日
会計基準IFRS
会計監査決算短信は監査対象外、有価証券報告書は監査対象

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

同社のコーポレートガバナンスは、2023年7月の東証グロース市場上場を起点に、上場企業として求められる開示体制・ガバナンス体制の強化を継続的に図りつつ、中核子会社ワールドコーポレーションの現場オペレーションとの接続を整える段階にある。持株会社としての取締役会は、グループ全体の資本政策・M&A・中期経営計画の策定・主要子会社の業績モニタリングを担い、事業会社側の経営会議で日々の採用・営業・技術者育成の意思決定が行われる二層構造となっている。

ガバナンス上の注目点は、IFRS適用下におけるのれんの減損リスク管理である。FY2025/10末ののれん残高14,074百万円は資本合計の0.97倍(FY2024/10末は1.05倍)に相当し、回収可能価額が帳簿価額を上回る状態を維持するためには、中核子会社ワールドコーポレーションの収益力とキャッシュ創出能力の継続が前提となる。同社は2024年10月末を基準日とする直近の減損テストで減損の兆候なしと判定しているが、中期経営計画の前半期(FY2026〜FY2027)に計画された成長投資による一時的な減益局面において、減損テストの感応度がどう推移するかは引き続き開示の論点である。

1-8. ESG/サステナビリティ情報

指標FY2022/10FY2023/10FY2024/10FY2025/10
連結従業員数(人)2,6523,2183,8114,283
前期比増加率+24.1%+21.3%+18.4%+12.4%
一人当たり売上高(百万円)5.485.595.675.64
一人当たり営業利益(百万円)0.770.770.820.66

出所:有価証券報告書より AENTRO Research 作成

同社のESG開示の中心は、人的資本である。連結従業員数は4期連続で2桁増を維持し、FY2022/10の2,652人からFY2025/10の4,283人へと1.6倍に拡大した。この増員の主体はワールドコーポレーションおよびATJCの技術者で、同社の「未経験者を入口にする」採用モデルを反映している。FY2025/10のワールドコーポレーションの採用人数1,985人のうち新卒は839人(1Q〜4Q合計)が含まれ、未経験層の取り込みが毎期の主要KPIとして位置付けられる。

退職率の水準は、ESG開示として押さえておくべきもう一つの重要指標である。ワールドコーポレーションのFY2025/10退職率は31.1%(前期比+2.0pt)、ATJCは23.6%(同+1.3pt)で、いずれも上昇している。稼働率の低下や配属までの期間長期化等が、技術者のエンゲージメントに影響する可能性がある。会社側は技術者の早期フォロー、キャリアデザインプロセスの強化、ゼロプロ成長サイクルを通じた資格取得支援を打ち手として開示しており、退職率の改善は単なる定量指標の管理ではなく、同社の事業モデルの生産性そのものに直結するESG論点である。

環境(E)に関しては、同社は人材派遣を本業とする軽資産型ビジネスモデルであり、製造業・エネルギー産業に比べて直接の環境負荷は小さい。ガバナンス(G)は東証グロース上場企業としての枠組みの整備段階にあり、現時点の主眼は社会(S)、とりわけ人的資本への投資とその結果としての退職率・稼働率の安定化にある。投資家の視点では、退職率と稼働率という2つのKPIは、同社のサステナビリティ経営と収益モデルの双方を貫く共通指標として読むべきである。

2. 事業内容

2-1. 事業全体像

ナレルグループの事業を理解するうえで重要なのは、単なる人材派遣会社ではなく、「建設の技術者を自社で大量採用し、研修を経て現場に供給し、配属後も営業担当が伴走して定着させる」という一連の工程を内部で完結させた、未経験者をプロ人材へ育成する仕組みを持つオペレーティング・カンパニー だという点である。業界の一般的な技術者派遣は、経験者を採用してそのまま顧客現場へ送り込むモデルが中心であり、有効求職者数(建設業の技術者は 2024 年で約 1.0 万人)が構造的に逼迫する中で、採用単価・人件費の上昇を常時被りやすい。これに対し同社は、全産業の有効求職者(約 190 万人)を母集団として未経験者を取り込み、自社の研修ラインを通して 1 年以内に施工管理・CAD・SES の現場に送り出す設計を採っている。

この「供給サイドを自社で作る」構造が、FY2025/10 時点で以下の規模にまで拡張されている。持株会社㈱ナレルグループの下に、建設技術者派遣の㈱ワールドコーポレーション、IT 技術者派遣の㈱ATJC、職人人材プラットフォームの㈱コントラフト、建設業務有料職業紹介事業の一般社団法人全国建設人材協会の 4 つの事業体を有する。連結従業員数は 4,283 名(FY2025/10 末)で、このうち技術者として派遣される在籍人数は建設 3,687 人・IT 430 人の合計 4,117 人に達する。売上の約 9 割は建設ソリューション事業が占め、IT はいわゆるグループ内の第 2 の柱という位置づけである。

出所:会社開示資料よりAENTRO Research作成
セグメント中核会社主要サービスFY2025/10 売上(百万円)構成比
建設ソリューションワールドコーポレーション施工管理・CAD 技術者派遣21,64289.5%
IT ソリューションATJCIT 技術者派遣・SES2,51510.5%
合計(外部顧客売上)24,158100.0%

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

この 9 : 1 のセグメント構成は、ここ数年大きく動いていない。建設ソリューションが売上・利益の大半を生み出し、IT ソリューションは相対的に小粒ながらグループ全体の採用ノウハウと建設 DX の文脈を繋ぐハブとして位置づけられている。したがって本章の残りは、主に建設ソリューションをベースに論点を組み立て、IT ソリューションは「単価が高いが絶対額が小さい補完事業」として差分を記述していく。

2-2. サービスライン別の構成

建設ソリューション(ワールドコーポレーション)の派遣対象は、建設現場の「現場監督」=施工管理者が中核で、ここに CAD オペレーターや設計補助が続く。派遣先は、オフィスビル・高層マンション・商業施設・医療福祉施設といった建築、道路・河川・橋梁・トンネルといった土木、工場・プラントの空調衛生・電気設備など、ゼネコンが扱う主要プロジェクトを広くカバーする。施工管理者の業務は「工程管理・安全管理・品質管理」+「原価管理」の 4 管理に集約され、派遣契約で技術者を直接現場に常駐させる形態がベースである。

IT ソリューション(ATJC)は、SIer 等のシステム開発案件およびインフラ運用の現場に IT 技術者を派遣または SES 契約で供給する事業。金融・公共・通信系の開発案件が中心で、FY2025/10 からは上流工程案件の獲得を進めており、相対的に単価の高いレイヤーへシフトしつつある。ATJC は 2020 年 12 月に買収でグループインした会社で、IT 技術者の採用難に直面していたところをナレルグループの採用ノウハウで補強するという買収ロジックで入ってきた経緯がある。

サービスラインサービス内容派遣先業種契約形態
建設技術者派遣施工管理(4 管理)、CAD オペレーター、設計補助ゼネコン、サブコン、設備工事会社、プラント労働者派遣契約(月次)
IT 技術者派遣システム開発(上流〜下流)、インフラ管理、運用SIer、金融・公共・通信系ユーザー企業労働者派遣契約/SES
職人紹介(周辺事業)技能労働者の職業紹介専門工事会社、ゼネコン協力会有料職業紹介(成約時 Fee)
建設 DX 支援(周辺事業)DX ツール導入支援、ICT 運用研修ゼネコン、サブコン派遣+サービスフィー

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

表からわかるとおり、収益の屋台骨はあくまで 1 本目・2 本目の「月次派遣契約」である。職人紹介は成約時フィーのスポット収益が中心だが、建設 DX 支援は DX ツールの導入・定着・運用を担う人材を施工管理者として派遣するケースもあり、この場合は月次派遣契約に基づくストック収益となる。したがって建設 DX は、スポット的なサービスフィーと継続的な派遣収益の双方を含む複合的な収益構造を持つ。後述するように中期経営計画 "Change and Growth 2030" の後半期(FY2028-2030)では、職人紹介と建設 DX の利益貢献を拡大させることが戦略の肝に置かれている。

2-3. エンドユーザーへの提供価値

ビジネスを理解するうえで、顧客(派遣先企業)と派遣社員それぞれにどんな価値が出ているかを切り分けておきたい。

派遣先企業(ゼネコン・SIer 等)への価値は、建設業界の現場における慢性的な人手不足に対し、育成済みの施工管理人材を安定的に供給するソリューションを提供している点にある。建設業の技術者は高齢化が加速しており、有効求職者数は全産業で 190 万人いるのに対して建設業の技術者(建築・土木・測量)では 1 万人しかいない。ゼネコン側が自社採用で経験者を獲得しようとすると、そもそも市場にパイがなく、獲得できても採用コストは非常に高い。同社は、他業種からの未経験者を取り込み、入社 1 年以内の研修を経て派遣できるフォーマットを整えているため、顧客は「採用市場にいない人材」を、派遣会社を経由して間接的に確保できる構造になっている。

派遣社員(未経験層)への価値は、「建設・IT という専門領域に、経験ゼロから入れるキャリアエントリー」である。同社の採用対象は新卒・第二新卒・異業種からの転職希望者が中心で、入社後に基礎技術研修 → 最初のプロジェクト配属 → 専門技術基本研修 → 二度目以降のプロジェクト、というステップで育成されていく。資格手当の仕組みを整備して未経験者の育成を加速しており、令和 7 年度前期施工管理技術検定では 234 名が合格している。未経験者にとっては「研修 → 配属 → 資格取得」というキャリアラダーが用意されている点が、他社の即戦力中心モデルとの差別化になる。

この二面の価値設計が、結果として「建設業界の人手不足構造を、同社が自社で内製化する」というビジネスロジックに収束する。

2-4. 収益モデル

収益モデルは極めてシンプルで、稼働している技術者 1 人当たりの月次契約単価 × 平均稼働人数 × 12 ヶ月 が売上のほぼ全額を説明する。契約形態は顧客企業との労働者派遣契約(IT の一部は SES)で、契約単価は月額ベース、残業代は別途加算という構造である。したがって売上は原則としてフロー収益であり、長期一括契約に伴う収益の繰延・前受はほぼ発生しない。

コスト側は、派遣技術者に支払う人件費(原価)+採用費(原価)+営業・採用・バックオフィス人件費(販管費)が主要項目で、FY2025/10 の売上原価率 74.2%、販管費率 13.9%、営業利益率 11.7% という水準に落ち着いている。のれん 14,074 百万円は 2019 年 11 月のワールドコーポレーション取得時に計上されたもので、営業利益には償却費としてはヒットしない(IFRS のため非償却)が、毎期減損テストを受ける対象である。FY2025/10 末時点での回収可能価額は帳簿価額を十分に上回っており、減損の兆候はない。

収益の成り立ち計算構造FY2025/10 実績(建設)
売上 = 月次契約単価 × 平均稼働人数 × 12 ヶ月 + 残業単価等ストック性のない月次フロー単価 519 千円 × 平均稼働 3,136 人 ≒ 年商 200 億円規模
原価 = 技術者人件費 + 採用費在籍人数・採用数に比例原価率 74.2%(連結)
販管費 = 営業・採用・本社人件費 + 営業所賃借料半固定費(採用部門増強局面では先行)販管費率 13.9%(連結)

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

現時点のビジネスモデルは極めて労働集約型であり、売上・利益の成長を追求するには在籍者数の拡大と稼働率の向上が至上命題となる。一方、在籍者が増えればトランザクション量も増加するため、販管費が比例的に膨らまない仕組みの構築が不可欠であり、中期経営計画 "Change and Growth 2030" の柱のひとつに「生産性向上」が据えられている背景もここにある。

ポイントは、このフロー収益モデルにおいて「単価 × 稼働人数」の積が毎月の売上を決めるため、稼働率(在籍人数に対する稼働人数の比率)の 1pt 低下は、そのまま売上・利益の 1% 程度の毀損に直結するという点である。FY2025/10 の稼働率は 92.6%(前期比△1.6pt)で、これが同期の営業利益減益(△9.1%)の大きな要因になっている(詳細は §4 業績動向)。

2-5. 主要 KPI

派遣ビジネスの体温計にあたる KPI は、在籍人数・稼働人数・稼働率・契約単価・採用数・退職率の 6 指標で、同社も決算説明資料でこの 6 つを月次・四半期ベースで開示している。直近 2 期の実績は以下のとおり。

建設ソリューション(ワールドコーポレーション)

KPIFY2024/10FY2025/10前期差コメント
期末在籍人数3,239 人3,687 人+448 人(+13.8%)積極採用が奏功
期末稼働人数3,058 人3,248 人+190 人稼働も増えたが在籍の伸びに劣後
平均稼働人数(期中)2,818 人3,136 人+318 人年平均ベースでは二桁増
平均稼働率(研修生除く)94.2%92.6%△1.6ptプロジェクト切替時の待機と首都圏の営業苦戦
平均契約単価510 千円/月519 千円/月+9 千円(+2.0%)単価交渉と低単価案件の回復で 4Q に上昇
採用人数1,805 人1,985 人+180 人(+10.0%)下期に採用投資が奏功
退職率29.1%31.1%+2.0pt稼働率低迷を受けて悪化

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

テーブルから読み取れる最も重要なポイントは、在籍人数 +13.8% に対して平均稼働率が△1.6pt 低下しているという歪みである。在籍は大きく増えたが、そのうちの稼働へのコンバージョンが期待どおりに進まず、結果として「稼働率低下 → 退職率上昇 → 採用が必要 → 更にコスト先行」という連鎖が発生した。このスパイラルが FY2025/10 の利益圧迫の正体であり、FY2026/10 以降の投資仮説の中心論点でもある(詳細は §3 経営戦略、§4 業績動向)。

契約単価の +9 千円は、売上高ベースで約 350 百万円(平均稼働 3,136 人 × 9 千円 × 12 ヶ月)の嵩上げ効果に相当する。単価上昇の中身は、(i) 単価交渉による底上げ、(ii) 前期に低単価で契約した案件の回復、(iii) 未経験者比率上昇による押し下げ効果を経験者比率上昇で相殺、という三層構造になっている。

IT ソリューション(ATJC)

KPIFY2024/10FY2025/10前期差コメント
期末在籍人数404 人430 人+26 人緩やかな拡大
期末稼働人数357 人365 人+8 人稼働人数の伸びは限定的
平均稼働人数(期中)342 人362 人+20 人年平均ベースで +5.8%
平均稼働率(研修生除く)93.9%92.2%△1.7pt建設と同様に稼働率が低下
平均契約単価514 千円/月524 千円/月+10 千円上流工程案件の獲得で単価上昇
採用人数151 人161 人+10 人採用は着実に拡大
退職率22.3%23.6%+1.3pt建設対比で低水準を維持

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

IT ソリューションは建設と比べて規模が 10 分の 1 だが、単価は 524 千円と建設の 519 千円より僅かに高く、退職率は 23.6% と建設(31.1%)より 7.5pt 低い。「規模は小さいが、人材の質は業界並みで、単価レンジは同等以上」というプロファイルで、建設領域への IT 技術者の逆輸入(建設 DX 事業での活用)というグループシナジーの受け皿としても位置づけられている。

2-6. 競争優位

業界内でのポジションを押さえておく。技術者派遣業界には、テクノプロ・ホールディングスやオープンアップグループのように建設に限らず IT・半導体等の複数領域にまたがる事業ポートフォリオを持つ大手や、ウィルグループのように総合人材サービスの一部門として建設領域を展開する企業がある。建設技術者派遣を主力事業とする上場企業としては、コプロ・ホールディングスが同社に最も近い比較対象となる。同社は売上規模ではこれら先行企業に次ぐ位置にあるが、成長率と利益率の両面では技術者派遣業界内で上位に位置し、売上高直近 3 ヵ年 CAGR・営業利益率のバランスにおいてピア群と比べてアウトパフォームしている。この結果を生み出している競争優位は、主に以下の 3 つに整理できる。

① 未経験者の大量採用と自社研修ラインの実装。これが最大のモート(参入障壁)である。未経験者を母集団にした採用は、ターゲットとなる求職者数が全産業 190 万人と建設業 1 万人の比で約 190 倍大きく、安定的な大量採用が可能である一方、「3K イメージ」を越えて応募から入社まで持ち込むためのマーケティング・スクリーニング・研修体制を持たないと成立しない。同社は毎月 150 人前後の採用規模を 10 年以上にわたり回し続けており、採用チャネル(自社採用メディア「セコカン NEXT」、人材紹介事業者、知人紹介、求人媒体)の多角化と研修施設の拡張を通じて、このオペレーションを内製化してきた。参入希望者が新たに構築するには時間とコストを要する資産である。

② 配属後の営業担当による伴走フォロー。技術者を配属して終わりではなく、営業担当が顧客現場を定期的に訪問し、技術者の稼働状況・キャリア希望・顧客からの評価を拾い上げて次のプロジェクト配属に繋げる。この「営業 × 採用 × キャリアデザイン」の 3 プロセスを一体運営する仕組みが、退職率を業界平均より低く抑え(同社 FY25: 31.1%、業界では 40% 超も散見)、結果として採用投資の回収効率を高める。FY2025/10 にこの機能を更に強化するため、営業・採用部門の増員に踏み切ったのが業績減益の一因である(§4 参照)。

③ 建設業界での 10 年超の実績と顧客ネットワーク。ワールドコーポレーションは 2008 年設立、2019 年にナレルグループ傘下。建設業の顧客ベースは都市部のゼネコンを中心に広範で、大型再開発プロジェクトやリニア新幹線関連工事など、中長期的に人員ニーズが見込める案件へのアクセスが確保されている。派遣事業は顧客との信頼関係の蓄積が単価と稼働安定性に直結するため、この実績年数は定量化しづらいが確かな参入障壁になる。

競争優位の 3 層具体的な中身模倣コスト
① 未経験者大量採用・自社研修毎月 150 人規模の採用チャネル、研修施設、セコカン NEXT高(数年単位の投資)
② 営業担当の伴走フォロー配属後訪問・キャリアデザイン支援・再配属中(仕組化で再現可能だがノウハウ蓄積が必要)
③ 建設業界 10 年超の顧客ベース都市部ゼネコン・大型プロジェクトへのアクセス高(時間でしか作れない)

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

以上の 3 層が重なることで、業界中央値(営業利益率 3.3% 前後)に対して FY2025/10 で 11.7%、過去 4 期平均で 13% 超という営業利益率スプレッドが構造的に維持されてきた。FY2025/10 の減益局面でも、このスプレッド自体が崩れたわけではなく、採用投資の先行負担がタイミングのズレとして計上された結果と読むのが自然である。

2-7. 周辺サービス・新規事業

コア事業の建設技術者派遣の周辺に、中期経営計画で利益貢献化を計画している 2 つの事業領域がある。いずれも現時点の売上寄与は限定的で、ほとんどは投資フェーズに位置する。

(1) 職人紹介事業(コントラフト × 全国建設人材協会)。コントラフトは 2021 年 10 月設立の子会社で、職人(技能労働者)向けの転職求人情報サイト「ジョブケンワーク」を運営する。ここに集めた求職者情報を、建設業務有料職業紹介事業の許可を持つ一般社団法人全国建設人材協会に提供し、会員企業(ゼネコン協力会を中心とする専門工事会社)への有料職業紹介として成約収益を得る構造である。「建設業務有料職業紹介事業」の許可を持つ団体は 2025 年 4 月時点で全国 3 団体のみ(みやぎ建設総合センター、沖縄県建設業協会、全国建設人材協会)で、ここが参入障壁として働く。FY2025/10 は登録求職者数・登録会員数ともに順調に増加し、成約件数も伸長したが、連結売上への寄与は現時点では限定的である。FY2025/10 から事業領域拡大の一環として「職人スカウト」(ダイレクトリクルーティング)も立ち上げている。

(2) 建設 DX 支援。ワールドコーポレーションが建設 DX 企業との協業を通じて、派遣技術者に BIM/CIM・図面デジタル化・施工管理クラウドツール等のデジタルスキルを付与し、ゼネコンの DX 推進を伴走支援するサービスである。派遣契約の単価に DX 研修・運用支援分を上乗せする形で、従来の施工管理派遣より高付加価値のポジションを取る狙いがある。また IT ソリューション事業(ATJC)にも建設業界向け ICT 事業を発足させ、建設 × IT のシナジーを取りに行く動きを開始している。FY2025/10 は複数の建設 DX 企業との協業が進展したが、こちらも売上寄与は限定的である。

新規事業運営主体ビジネスモデル参入障壁FY2025/10 売上寄与
職人紹介コントラフト × 全国建設人材協会成約時 Fee(有料職業紹介)建設業務有料職業紹介事業の認可(全国 3 団体のみ)限定的
建設 DX 支援ワールドコーポレーション × ATJC派遣単価上乗せ + DX 研修フィー建設 DX 企業とのパートナーシップ限定的
地場ゼネコン向け派遣ワールドコーポレーション地方展開地方支店網新規立ち上げ

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

この 2 事業は、中期経営計画 "Change and Growth 2030" の後半期(FY2028-2030)において利益貢献を拡大する想定が置かれている。前半期(FY2026-2027)はコア事業の基盤再整備と並行してこれらの種を撒くフェーズで、販管費は先行する構図である。同社が「成長投資優先」と説明しているのは、大半がコア事業の採用・営業基盤強化であるが、周辺 2 事業への投資も一部含まれる。

2-8. 事業上の主要論点

ここまで整理してきた事業構造を踏まえ、投資判断に直結する論点を 4 つ抽出しておく。それぞれ §4 業績動向・§6 株価インサイトで再掲・深掘りする。

論点 1:稼働率の低下(FY25: 92.6%、△1.6pt)が一時要因か構造要因か。在籍 +13.8% の急拡大に対して、プロジェクト配属のオペレーションが追いつかなかった側面が同社説明にある一方、首都圏での営業苦戦という言及もあり、採用過多だけで説明できない。FY2026/10 の稼働率回復軌道(同社想定では営業・採用部門の増強効果で改善)が出るかどうかが最初の観測ポイント。

論点 2:退職率 31.1% の高止まり。派遣業界の一般的な退職率(20%台後半〜30%台前半)に収まってはいるが、同社自身の過去水準(27.5% 近辺)からは悪化しており、かつ稼働率低下と相互連関している。退職率改善施策(社内検定、キャリアチェンジ制度、技術者交流機会拡大)の効果発現タイミングが中期の注目点。

論点 3:採用投資先行による利益率圧迫。FY2025/10 は下期に採用投資と営業・採用部門増員を優先した結果、営業利益率が 14.4% → 11.7% に 2.7pt 低下した。FY2026/10 会社計画では営業利益率 10.3% と更なる低下を見込むが、これは中期計画前半期(基盤投資フェーズ)の想定と整合的。ただし、利益率が構造的に 10% を割り込む展開になると、業界中央値との利益率スプレッドが縮小し、投資テーゼの柱が揺らぐ。

論点 4:IT ソリューションの相対的な小ささ。セグメント売上比 10.5% と二桁を辛うじて維持する規模感。建設 DX シナジーの受け皿として戦略上重要だが、単独セグメントとして見ると営業利益率 5.4%(FY25)は建設(10.4%)の半分弱。グループ連結の収益性を押し上げるというより、建設技術者の DX 価値向上という間接的な貢献経路になる。ATJC 単独での成長シナリオは期待しにくい一方、「建設 × IT」の連携が形になるかがセグメント評価の分岐点。

論点直近の数値モニタリングする KPI評価する時期
稼働率低下92.6%(△1.6pt)四半期稼働率、地域別稼働率FY2026/10 各四半期
退職率高止まり31.1%(+2.0pt)月次退職率、年次別退職率FY2026/10 通期
採用投資先行営業利益率 11.7%販管費率、採用費/在籍人数FY2026/10 下期
IT セグメントの成長性売上構成比 10.5%、利益率 5.4%ATJC 単価、建設 DX 連携売上FY2027/10 以降

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

以上の 4 論点は独立ではなく、稼働率低下と退職率高止まりが連動し、その解消のために採用投資を先行させるという一続きの構造を成している。したがって FY2026/10 通期で稼働率・退職率がどちらかでも明確な改善トレンドを示せば、投資仮説は底堅く進み、逆に両指標が更に悪化する場合は、採用投資の回収サイクルが回らないリスクとして捉え直す必要がある。次章以降では、この論点軸に沿って経営戦略(§3)、業績動向(§4)、中期経営計画(§5)を順に見ていく。

3. 経営戦略

3-1. 戦略の全体像:中期経営計画 "Change and Growth 2030"

ナレルグループは 2025 年 12 月、FY2026/10 を起点とする 5 カ年中期経営計画 "Change and Growth 2030" を開示した。基本方針は「人材とテクノロジーの両輪で建設業界の未来を支える」であり、建設業界の二大課題である「人材不足」と「生産性向上の遅れ」に対して、人材派遣・職人紹介・建設 DX ソリューションの 3 つのサービスラインで応える構成を取る。ミッションは「深刻化するプロ人材の枯渇を解決し、日本を課題解決先進国にする」と再定義されており、従前からの「未経験者採用・育成・派遣」モデルを土台にしつつ、周辺サービスへの多角化を同時に進める設計である。

この中計は明示的に 前半期(FY2026-2027)/後半期(FY2028-2030)の 2 段階構成 を取る。前半期は "Change" のフェーズと位置付けられ、売上拡大に向けた成長投資(営業・採用部門の増員、DX 事業基盤の整備、職人紹介マッチング基盤の強化)を優先し、利益率は一時的に 10% 台前半へ低下する想定。後半期は "Growth" のフェーズで、建設 DX 事業と職人紹介事業の収益貢献が立ち上がり、売上拡大と収益性向上を同時に取りに行く。FY2030/10 の財務目標は下表のとおりで、売上 CAGR 15% 以上、ROE 20% 以上、技術者人数 8,000 人(FY2025 末比 +1.9 倍)という意欲的な水準である。

項目FY2025/10 実績FY2026/10 計画FY2030/10 目標
売上収益24,159 百万円29,250 百万円(+21.1%)500 億円(CAGR 15% 以上)
営業利益2,827 百万円3,010 百万円(+6.5%)50 億円
営業利益率11.7%10.3%10.0%
ROE14.9%20% 以上
技術者人数4,117 人(建設+IT合計)4,476 人8,000 人

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

FY2026/10 の会社計画は売上 +21.1% 増収・営業利益 +6.5% 増益で、利益率は前期の 11.7% から 10.3% へ 1.4pt 低下する。売上の増加幅(+5,092 百万円)に対して原価・販管費の増加が大きく、上期は営業利益 △29.0% の減益となる計画である。一方、下期以降に成長投資の成果が収益へと反映される想定で、通期では増益に転じる。投資テーゼの観点から重要なのは、FY2026 の減益幅が計画線で収まるか、あるいは FY2025 と同様に未達(期初 25,650 百万円に対し 24,159 百万円)を繰り返すか である。

3-2. 市場環境と市場機会

中計の外部環境認識では、建設業界を取り巻く 4 つの潮流(顧客環境・規制・人材市場・技術革新)が整理されている。最も構造的なのは 技能労働者・建設技術者の絶対数不足 である。総務省労働力調査を基にした日本建設業連合会の試算では、建設技術職・技能職の合計は 2024 年時点から 2040 年にかけて大幅な需給ギャップが発生する見通しとされ、若年層の新規流入が減少する中で、ベテラン層のリタイアが加速する局面に入っている。加えて、2024 年問題(時間外労働上限規制)を契機とした週休 2 日制の普及は、単位時間あたりの生産性向上を不可避にしており、DX ニーズを加速させている。

市場セグメント方向性ナレルグループの立ち位置
建設技術者派遣(コア事業)需給ひっ迫継続、単価上昇基調未経験者採用を主ゲートにした供給サイドの希少プレイヤー
職人紹介(有料職業紹介)規制緩和・事業承継需要で拡大余地全国 3 団体のみ許可を持つ「全国建設人材協会」を保有
建設 DX(建設テック)矢野経済研究所は 2030 年度にかけて市場拡大を予測派遣技術者に DX スキルを付与した「伴走型」サービスが差別化軸
IT エンジニア派遣(SES)上流工程比率を上げた企業が利益率で先行ATJC 経由で建設業界向け ICT 事業を新設、グループシナジーを設計

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

この 4 象限のうち、建設技術者派遣だけが既に利益を出している領域であり、残りの 3 象限は FY2026-2027 に基盤投資を行い、FY2028 以降の収益化を狙う位置付けになる。市場機会としては、①人材不足解消ニーズ、②DX・生産性向上支援の需要増、③規制緩和による新市場の可能性、④多様な働き方の顕在化が挙げられており、これらはいずれも同社の既存オペレーションから派生可能な隣接領域で構成されている。

3-3. 成長戦略の基本骨格(3 層構造)

中計で提示された成長戦略は 4 本柱(コア事業の競争力向上/建設 DX の推進/職人紹介事業の拡大/生産性の向上)だが、投資観点で整理すると 3 層のレイヤー構造 として読み解くのが分かりやすい。

第 1 層:既存事業の収益基盤強化

中核のワールドコーポレーション(建設技術者派遣)と ATJC(IT エンジニア派遣)で、採用・営業・育成/定着の各プロセスを再設計し、稼働率・退職率・契約単価という既存 KPI の改善に集中する。FY2025 の稼働率 92.6%(△1.6pt)、退職率 31.1%(期初計画 27.5% 未達)という 2 つの数字の回復が、この層の成否を示す指標となる。

第 2 層:建設 DX による隣接領域への展開

主としてワールドコーポレーションが、外部パートナーとの協業を通じて建設 DX を推進している。業務提携を公表しているスカイマティクス、Arent の 2 社をはじめ、複数の建設 DX 企業のツールを活用しながら、ICT ツール導入支援・点群計測・3D モデリング・遠隔臨場支援などのサービス群を構築する。建設 DX に精通した人材を施工管理者として派遣し、導入・定着・運用まで伴走する「伴走型人材サービス」を提供する構想であり、派遣単独事業からの単価上昇を狙う打ち手として位置付く。

第 3 層:職人紹介事業の新規立ち上げ・拡大

全国 3 団体のみが認可を持つ建設業務有料職業紹介事業(全国建設人材協会)と、職人向け求人サイト「ジョブケンワーク」(コントラフト運営)の 2 社を軸に、職人(技能労働者)向けマッチング基盤を整備する。2025 年 11 月からはダイレクトリクルーティング「職人スカウト」を提供開始し、既存の登録制マッチングに能動型チャネルを加えた。派遣法上、職人の人材派遣は禁止されているため、職業紹介事業許可が競争優位の法的な源泉となる。

戦略レイヤー主担当子会社FY2026-2027 の位置付けFY2028-2030 の位置付け
既存派遣の収益基盤強化ワールドコーポレーション/ATJC採用・営業・育成の体制整備、稼働率・退職率の回復高稼働×単価上昇で利益ドライバー継続
建設 DX の推進ワールドコーポレーション建設 DX 部門/ATJC(建設向け ICT 事業)DX 研修の拡大、BPO 事業立ち上げ、協業先の深耕単価プレミアム層として利益貢献化
職人紹介事業の拡大コントラフト/全国建設人材協会マッチング基盤整備、ステークホルダー連携強化成約件数の拡大で第 2 の利益エンジン化

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

3-4. 重点市場・サービス別の成長戦略

建設ソリューション:営業・採用・育成の三位一体再編

コア事業である建設技術者派遣は、FY2025 に稼働率が低下し退職率が計画を超過した反省を受け、3 つの機能を一体で再設計する方針が打ち出されている。採用面では母集団形成の多様化(自社採用メディア「セコカンNEXT」など)、採用ブランディング強化、経験者採用の拡大を並行で進める。営業面では「採用起点の営業体制」の構築、顧客基盤拡大による案件数創出、DX 活用による営業業務の効率化が掲げられる。育成・定着面では、2024 年に掲げた 「ゼロプロ成長サイクル」 を拡充し、試験対策講座の対象範囲を建築領域から電気・土木・管工事などへ広げ、社内検定・キャリアチェンジ制度の導入で成長実感を高める設計となっている。FY2025 末時点で資格保有者は 474 名(在籍人数の約 13%)に到達しており、この比率の引き上げが単価上昇・定着率の向上の原資となる。

IT ソリューション:上流工程比率の向上

ATJC は FY2025 に契約単価 524 千円/月(+10 千円)を達成しており、上流工程案件の獲得が単価に反映され始めている。中計では、システム開発の上流工程比率を引き上げ続けるとともに、建設業界向け ICT 事業を ATJC 内に新設 し、ワールドコーポレーションの建設 DX 事業と教育体制を連動させる方針が示されている。ATJC 単独での IT エンジニア派遣事業と、グループシナジーを生かした建設 DX 展開の 2 軸で、FY2030 に向けた利益率改善を取りに行く構図である。

建設 DX:協業ネットワークと専門チーム体制

建設 DX の推進は、自社で SaaS を開発するのではなく、既存の建設 DX 企業(スカイマティクス、Arentほか)との協業 を通じた「ICT ツール導入支援・研修・伴走型運用」を事業ドメインとする。技術者に DX スキルを付与し、顧客現場へ「ICT コンサルタント+支援員」のチームを派遣するモデルで、単価プレミアムの源泉は「DX 研修を終えた派遣技術者の育成コスト」となる。スカイマティクス社との戦略的業務提携(ドローン測量サービス「くみき」の DX 人材育成・派遣)は、この事業モデルの典型事例である。

職人紹介:マッチング基盤の強化と新規サービス

職人紹介は既存事業の強化(自治体連携、業界団体・ゼネコン協力会との連携強化)と新規サービス(「職人スカウト」、地場ゼネコン・専門工事会社向け派遣事業)の 2 方向で進める。金融機関との連携による事業承継案件の開拓も打ち手として明示されており、派遣では届かなかった中小・地方マーケットへのアプローチ が新規事業の本質となる。

3-5. 中長期の付加価値拡張とキャピタルアロケーション

中計の財務戦略では、キャッシュアロケーションの優先順位が ①成長投資、②有利子負債の削減(財務基盤強化)、③安定配当 の順で明示されている。成長投資の中身は、採用投資・人的資本投資、DX/IT 投資、拠点拡張/新設投資の 3 カテゴリー。FY2025 末の有利子負債 5,616 百万円(FY2022/10 の 7,278 百万円から継続的に圧縮)、自己資本比率 58.9%、ネット有利子負債 794 百万円と、財務基盤は既に過剰ともいえる水準まで整備されており、中計期間中の成長投資余力は相応にある。

株主還元はシンプルで、「中期経営計画期間中(FY2026-2030)は減配を行わず安定的な配当を継続」と明言されている。FY2026 の年間配当は前期同額の 115 円(配当性向 48.1%)で据え置かれ、成長投資ドリブンの減益局面でも配当を守る設計である。M&A は中計の目標数値には織り込まれないオプション扱いで、過去 3 件(ATJC、全国建設人材協会、CAD/施工図作成事業)の実績に加え、建設 DX 支援・職人紹介事業の強化に資する領域を対象とする方針が示された。

キャッシュ配分優先順位中計期間中の具体策
成長投資最優先採用投資・人的資本投資/DX・IT 投資/拠点拡張・新設投資
財務基盤強化2 番目有利子負債の継続的削減
株主還元3 番目(減配しない)FY2026-2030 は減配を行わず安定配当を継続
M&A目標数値外のオプション建設 DX 支援・職人紹介事業のシナジー買収

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

3-6. 投資計画と人材戦略

FY2026/10 の会社計画では、売上 +5,092 百万円の増収に対して営業利益は +183 百万円の増益にとどまる。差分の大半は、成長投資に伴うコスト増 として以下の 3 項目に配分される:①技術社員の採用数拡大と待遇改善に伴う人件費の増加、②営業・採用部門の体制強化に伴う人件費・採用費の増加、③オフィス・拠点拡張と社内インフラ整備。営業利益ブリッジの差異要因には、原価の人件費差異 △3,506 百万円、採用費差異 △242 百万円、販管費の人件費差異 △620 百万円が並び、中計前半期の利益率圧迫は計画の一部として想定 されていることが読み取れる。

ワールドコーポレーションの FY2026 KPI 計画は、期末在籍人数 4,247 人(前期比 +15.2%)、期末稼働人数 3,818 人相当、採用人数 2,500 人(+25.9%)、退職率 27.9%(FY2025 の 31.1% から改善)という水準である。退職率の 3.2pt 改善 は「ゼロプロ成長サイクル」の拡充・キャリアチェンジ制度・社内検定導入の効果を見込むものだが、FY2025 に期初計画 27.5% に対し実績 31.1% と未達となった経緯を踏まえると、この数字が実現するかは投資家の最も重要な監視対象である。ATJC は採用人数 254 人、退職率 22.5% 水準と、建設側より定着率の高い構造が維持される前提となっている。

人材戦略の基軸は 「内勤社員の継続スキルアップ」と「技術社員のゼロプロ成長サイクル」 の 2 トラック構成である。内勤社員向けには自発的学習の定着をテーマに教育制度を拡充、技術社員向けには研修体制強化(試験対策講座の領域拡大・全国展開)と社内検定・キャリアチェンジ制度の導入が進行中。採用投資は母集団の質の高度化と、採用チャネルの多様化(オウンドメディア、経験者採用)で、採用単価の最適化と退職率低下を両立 することがゴール設定されている。

3-7. 戦略の優先順位と今後の論点

"Change and Growth 2030" は、投資ホライズンによって評価軸が異なる計画である。FY2026-2027 の前半期は利益率が 10% 台前半へ低下する局面であり、株価評価上は「利益率の下振れを成長投資として受け入れるか、未達として失望するか」のサイド選びが問われる。FY2028-2030 の後半期は、建設 DX・職人紹介事業が利益貢献に転じる想定だが、これは現時点では ランドスケープの仮説 であり、セグメント利益の数字でまだ裏付けられていない。

今後 12-18 カ月で確認すべき論点は 3 つに集約される。第 1 に 稼働率の回復軌道。FY2025 の 92.6% から FY2026 にかけて 95% 台へ戻せるかが、売上 +21.1% 計画の成否を決める。第 2 に 退職率の低減。ゼロプロ成長サイクルの拡充効果が 31.1% → 27.9% の 3.2pt 改善として数字に出るか。第 3 に 採用単価の最適化。FY2025 の採用 1,985 人(採用費ほか含む投資額)に対する ROI が、FY2026 の 2,500 人計画の中でどう推移するか。これら 3 つの KPI のうち 2 つが計画線で進捗すれば、後半期の DX・職人紹介への投資原資が厚みを増し、FY2030 目標(売上 500 億円、営業利益 50 億円、ROE 20% 以上)の蓋然性が高まる。逆に FY2026 の期中時点でも稼働率・退職率の両方が計画未達で推移する場合、中計の前半期/後半期の 2 段階設計が後ろ倒しになるリスクを内包する、というのが本章の結論である。

4. 業績動向

4-1. 直近5期の経営成績

ナレルグループの過去 4 期は、売上高 CAGR 約 18.4%(FY2022/10 14,541 百万円 → FY2025/10 24,159 百万円)と、国内人材派遣業界の平均成長率を大きく上回るペースで推移してきた。技術者派遣の在籍人数拡大を軸にしたトップライン成長が、利益の絶対額も同時に押し上げてきた構造である。一方で、FY2025/10 は売上収益が前期比 +11.8% に鈍化するとともに、営業利益が前期比△9.1% の減益となり、連続増益トレンドが一度リセットされた節目の期でもある。これは外部環境の悪化ではなく、中期経営計画 "Change and Growth 2030" の初年度に向けた採用・営業体制への先行投資が販管費および原価側の人件費を押し上げたためで、構造的な業績悪化ではないと判断する。

FY2026/10 の会社予想は売上収益 29,250 百万円(前期比 +21.1%)、営業利益 3,010 百万円(同 +6.5%)。前年の先行投資の果実が新規配属・稼働人数の純増として出始める期と位置付けられており、トップラインは 5 期ぶりの 20%台成長に回帰する計画である。

表 4-1. 連結 PL 5 期推移(単位:百万円、IFRS)

科目FY2022/10FY2023/10FY2024/10FY2025/10FY2026/10 会予
売上高14,54117,99521,60924,15929,250
売上総利益4,2305,1695,9416,238
販管費2,1902,7002,8303,410
EBITDA2,2782,7143,3723,1123,310
営業利益2,0402,4693,1112,8273,010
営業利益率14.0%13.7%14.4%11.7%10.3%
税引前当期利益1,8522,4763,0602,7592,940
親会社帰属当期利益1,2431,7412,1882,0872,090
純利益率8.5%9.7%10.1%8.6%7.1%
EPS(円)209.88255.16238.74238.88
DPS(円)095110115115

出所:有価証券報告書より AENTRO Research 作成

出所:会社開示資料よりAENTRO Research作成

4-2. 収益構造の変化と利益率の見方

売上総利益率は FY2022/10 の 29.1% から FY2025/10 の 25.8% まで、4 期で 3.3pt 低下している。一見するとマージンの構造劣化に見えるが、同社の売上原価は大半が派遣技術者の人件費であり、在籍人数の急拡大と未経験者比率の上昇に伴って原価率が押し上げられている側面が大きい。特に FY2025/10 は、採用計画 1,985 人(+180 人)のうち未経験者中心の採用プロセスが本格稼働したこと、研修中・配属待機状態の技術者が一時的に増えたことが、原価率 74.2%(前期 72.5%)という数字に反映されている。

販管費率は FY2022/10 の 15.1% から FY2024/10 に 13.1% まで一度低下したのち、FY2025/10 は 14.1% に再上昇した。これは中計初年度に向け、営業・採用部門の人員を先行的に増員したためで、トップラインに比して販管費が先に膨らむ期であったことが読み取れる。結果として営業利益率は FY2024/10 の 14.4% をピークに FY2025/10 は 11.7% へ▲2.7pt 低下した。

ただし人材派遣業界全体の営業利益率中央値(3.4% 前後)と比較すれば、FY2025/10 の 11.7% は依然として 3 倍以上の水準にある。「育成型技術者派遣モデル」の構造優位が維持されているかを判断する上で、FY2026/10 の営業利益率 10.3% 見通し(会社計画)は、前年の成長投資を一旦消化しきる想定と読むべきである。

表 4-2. 収益性指標の 4 期推移

指標FY2022/10FY2023/10FY2024/10FY2025/10
売上総利益率29.1%28.7%27.5%25.8%
売上原価率70.9%71.3%72.5%74.2%
販管費率15.1%15.0%13.1%14.1%
EBITDA マージン15.7%15.1%15.6%12.9%
営業利益率14.0%13.7%14.4%11.7%
純利益率8.5%9.7%10.1%8.6%

出所:有価証券報告書より AENTRO Research 作成

出所:会社開示資料よりAENTRO Research作成

4-3. 財政状態と資本効率

連結総資産は FY2022/10 の 20,156 百万円から FY2025/10 には 24,562 百万円(4 期で +21.9%)まで拡大した。資産構成で特徴的なのは、無形固定資産 14,118 百万円(総資産比 57.5%) が期中ほぼ横ばいで常時 60% 弱の比率を占める点である。これは 2019 年のワールドコーポレーション取得に伴って計上された「のれん」および顧客関連無形資産に由来するもので、IFRS 採用下ではのれんの定期償却が発生しないため、総資産に占めるウェイトが長期間にわたり維持されている。

自己資本比率は FY2022/10 の 49.3% から FY2025/10 には 58.9% へ改善した。利益の積み上げによる純資産の拡大(9,933 百万円 → 14,479 百万円、+45.8%)と、有利子負債の段階的返済(7,278 百万円 → 5,616 百万円)が同時に進んだ結果、ネット有利子負債は 4,994 百万円から 794 百万円まで急減している。ネット D/E レシオは 0.50 倍 → 0.05 倍、有利子負債/EBITDA は 3.19 倍 → 1.80 倍と、財務レバレッジは 4 期で明確に軽くなった。

ROE は FY2022/10 の 13.4% から FY2024/10 にピークの 17.1% まで上昇したのち、FY2025/10 は 14.9% に低下。ROIC(事業資産ベース)も同様に 8.5% → 12.5% → 11.7% と推移しており、FY2025/10 の低下はあくまで先行投資負担による分子(営業利益)側の一時的圧迫である。自己資本比率の上昇により分母(株主資本)が厚くなったことも ROE 低下の要因だが、財務健全性と引き換えのトレードオフとしては許容範囲と評価する。

表 4-3. 連結 BS サマリー(単位:百万円)

科目FY2022/10FY2023/10FY2024/10FY2025/10
資産合計20,15622,50523,61724,562
流動資産4,8777,0617,9278,469
うち現預金2,2844,0834,5174,822
固定資産15,27915,44415,69116,093
うち無形固定資産14,09914,10314,09514,118
負債合計10,22310,32810,17710,083
有利子負債7,2786,6136,1485,616
ネット有利子負債4,9942,5301,631794
純資産合計9,93312,17713,44114,479
自己資本比率49.3%54.1%56.9%58.9%
ROE13.4%15.8%17.1%14.9%

出所:有価証券報告書より AENTRO Research 作成

出所:会社開示資料よりAENTRO Research作成

4-4. キャッシュフローと財務運営

営業キャッシュフローは FY2023/10 以降、2,298〜2,314 百万円のレンジで安定推移している。売上収益が 4 期で約 1.66 倍に拡大する中でも営業 CF は横ばいで推移した背景には、運転資本(特に売上債権)が売上拡大に比例して 2,301 百万円 → 3,388 百万円まで増加したことと、FY2025/10 の採用費・人件費先行計上による利益圧迫の両面がある。それでも営業 CF マージンは 9.5〜12.9% のレンジにあり、派遣業の労働集約型モデルとしては極めて良好な水準にある。

投資 CF は FY2025/10 で△198 百万円と、オフィス拡張・研修施設拡張の設備投資が出始めているが、総資産比では 0.8% と依然として軽資産な事業モデルを維持している。結果としてフリー・キャッシュフロー(FCF)は FY2023/10 以降 2,100〜2,336 百万円のレンジで安定し、4 期累計で約 81 億円の現金を生み出している。

財務 CF は FY2025/10 で△1,923 百万円。内訳は有利子負債の返済と配当支払が中心で、FY2023/10 以降は毎期 15〜19 億円規模の資金が株主還元と借入返済に振り向けられている。配当性向は FY2024/10 の 43.6% から FY2025/10 に 48.2% へ上昇し、DPS は 110 円 → 115 円と 3 期連続で引き上げられた。FY2026/10 も DPS 115 円を据え置く会社計画だが、FCF の安定水準を踏まえると、現在の配当水準は FCF カバレッジ上も無理がないと判断できる。

なお BS 項目として常時存在する無形固定資産 14,118 百万円は現金支出を伴わないため、FCF には直接影響しない。むしろ営業 CF の安定性は、派遣モデルの「売掛金回収 → 給与支払」という短サイクルの運転資本構造と、ストック化された技術者基盤に支えられている点が同社の強みである。

表 4-4. キャッシュフロー 4 期推移(単位:百万円)

科目FY2022/10FY2023/10FY2024/10FY2025/10
営業活動 CF1,5542,3142,3102,298
投資活動 CF△17622△6△198
財務活動 CF△1,249△537△1,870△1,923
フリー CF1,3782,3362,3042,100
営業 CF マージン10.7%12.9%10.7%9.5%

出所:有価証券報告書より AENTRO Research 作成

4-5. 直近四半期(FY2025/10 第 4 四半期)の概要

FY2025/10 第 4 四半期(8 月〜10 月)は、売上収益が前年同期比 +7.3%(+425 百万円)、営業利益は同△41.2%(△396 百万円) と、数字上は増収減益の幅が通期よりも拡大した。減益の内訳は、原価側で人件費 △410 百万円・採用費 △177 百万円、販管費側で人件費 △83 百万円、その他原価 △9 百万円、採用費 △3 百万円、その他収益費用差異 △139 百万円というように、原価側・販管費側の両面で人材投資コストが膨らんだことに起因する。

数字の背景にあるのは 2 つの動きである。第一に、4Q 単体の採用人数は 534 人(前年同期 +182 人)に達し、通期で 1,985 人と計画を超過した点。採用プロセスの見直しと積極投資が下期に奏功したことで、未経験者を中心とした新規採用が拡大したが、これは原価内人件費と採用費の先行計上を意味する。第二に、建設ソリューション事業の平均稼働率が通期で 92.6%(前期比△1.6pt)と想定を下回った点。プロジェクト切替時の待機者発生や首都圏での営業苦戦が、稼働人数増に対する稼働率の頭打ちとして現れた。

結果として、退職率は FY2025/10 通期で 31.1%(前期比 +2.0pt)と上昇し、稼働率と退職率の 2 つの KPI が同時に悪化した期となった。ただし IT ソリューション事業(ATJC)の 4Q 契約単価は、システム開発上流工程案件獲得を背景に上昇しており、単価交渉力そのものは維持されている。

表 4-5. FY2025/10 4Q 営業利益ブリッジ(単位:百万円)

要素金額
2024/10 期 4Q 営業利益961
売上増による粗利増+425
原価:人件費増△410
原価:採用費増△177
原価:その他△9
販管費:人件費増△83
販管費:採用費増△3
その他収益費用差異△139
2025/10 期 4Q 営業利益565

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

4-6. 通期見通し(FY2026/10 会社予想)

FY2026/10 は中期経営計画 "Change and Growth 2030" の初年度にあたり、会社予想は売上収益 29,250 百万円(前期比 +21.1%)、営業利益 3,010 百万円(同 +6.5%)、EBITDA 3,310 百万円、親会社帰属当期利益 2,090 百万円(同 +0.1%)、EPS 238.88 円、DPS 115 円(据え置き)。上期(第 2 四半期累計)は売上収益 13,530 百万円(前年同期比 +14.7%)、営業利益 1,090 百万円(同△29.0%)と、上期は減益継続、下期に採用投資の回収が本格化する形の業績プロファイルが示されている。

トップライン +21.1% の背景は、FY2025/10 に先行採用した技術者が FY2026/10 に本格配属・稼働するタイミングに重なる点、および契約単価が建設・IT 両セグメントで小幅上昇を織り込める点。営業利益率は 10.3% 見通しで、FY2025/10 対比で再度低下する形だが、これは上期の採用・営業体制増強投資がなお継続することを前提にしている。見通しの達成確度は、第 2 四半期時点の稼働率・退職率の改善有無で早期に検証できると見ている。

表 4-6. FY2026/10 会社予想サマリー(単位:百万円)

科目FY2025/10 実績FY2026/10 会予前期比
売上高24,15929,250+21.1%
EBITDA3,1123,310+6.4%
営業利益2,8273,010+6.5%
税引前当期利益2,7592,940+6.6%
親会社帰属当期利益2,0872,090+0.1%
売上総利益率25.8%
営業利益率11.7%10.3%△1.4pt
EPS(円)238.74238.88+0.1%
DPS(円)115115± 0

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

4-7. 今後の注目点

FY2026/10 以降の業績トラックで重視すべき観点は 3 つに集約される。

第一に、稼働率の回復軌道。FY2025/10 の通期平均稼働率は建設 92.6%、IT 92.2% といずれも前期から低下した。会社側はプロジェクト切替時の待機者発生と首都圏営業の競争激化を要因に挙げており、FY2026/10 上期時点で稼働率が 93% 台に戻るかどうかが、下期の利益回復シナリオを占う最初の検証ポイントとなる。稼働率が 1pt 改善すれば、粗利率換算で約 0.7〜1.0pt の改善インパクトが見込まれる試算である。

第二に、退職率の改善。FY2025/10 の退職率 31.1% は前期比 +2.0pt と上昇した。稼働率低迷時には現場外の待機・研修期間が長くなるため退職率が上昇する構造的関係があり、稼働率の回復と退職率の低下は連動して進むと想定される。会社側は早期フォロー等の施策を継続しており、FY2026/10 下期以降に退職率 30% 割れが実現できるかを注視する。

第三に、採用効率。FY2025/10 は採用人数 1,985 人・採用費増が利益を圧迫した期だが、採用数×稼働率×契約単価の 3 指標が連動して改善に向かえば、先行投資が FY2026/10 下期〜FY2027/10 にかけて売上・利益双方に「遅延ボーナス」として現れる構造である。本章で見た FY2022/10〜FY2024/10 の連続増益トレンドは、同様のサイクルの前例と捉えられる。

ナレルグループの業績は、短期的には「先行投資期の減益 → 回収期の増益」という数期サイクルで評価すべきであり、FY2025/10 の減益は前者の局面に位置付けられる。稼働率・退職率・採用効率という 3 つの KPI が FY2026/10 内で改善トレンドに戻れば、中期経営計画 "Change and Growth 2030" の後半期(FY2028-2030)に向けた利益成長の再加速は射程に入ると判断する。

5. 中期経営計画

5-1. 位置づけ — "Change and Growth 2030"

同社は 2025 年 12 月 12 日付で中期経営計画 "Change and Growth 2030" を公表した。計画期間は FY2026/10 〜 FY2030/10 の 5 年間、ミッションとして「深刻化するプロ人材の枯渇を解決し、日本を『課題解決先進国』にする」を掲げる。建設業界が抱える二大課題 — 慢性的な人材不足と生産性向上の遅れ — に対し、人材派遣・職人紹介・建設DXソリューションの3 本柱で対応し、2030 年 10 月期に 売上収益 500 億円/営業利益 50 億円/営業利益率 10.0%/ROE 20% 以上/技術者人数 8,000 人 の達成を目指す。

計画は「前半期(FY2026-FY2027、2 か年)」と「後半期(FY2028-FY2030、3 か年)」に二分されている。前半期は "Change" と位置づけられ、売上拡大に向けた成長投資を優先するとともに、営業・採用基盤および経営インフラの整備を行い、将来の持続的成長に向けた土台の構築を優先する局面である。結果として利益率は一時的に低下することが想定されており、実際に初年度 FY2026/10 の会社予想営業利益率は前期比 △1.4pt の 10.3% に低下する計画となっている。

一方、後半期(FY2028-FY2030)は "Growth" と位置づけられ、前半期に構築した基盤と生産性向上施策を梃子に、建設DX事業・職人紹介事業の収益貢献を加速させることで、売上拡大と収益性向上を同時達成する局面とされている。つまり、投資家の視点で見ると、FY2026-FY2027 は利益成長が鈍る過渡期であり、中計の成否は後半期の建設DX・職人紹介事業のスケール化にかかっている。この点が本中計の最大のリスクポイントである。

5-2. 数値目標 — FY2030/10 売上 500 億円・営業利益 50 億円

中期経営計画で示された定量目標は以下の通り。売上高 CAGR 15.0% 以上というハードルは、直近 4 期(FY2022-FY2025)の売上 CAGR 18.4% を若干下回る水準であり、成長率そのものはトレンドライン上にある。ただし営業利益率は FY2025 実績 11.7% → FY2030 目標 10.0% と構造的にやや低下する設計になっており、これは後半期で建設DX・職人紹介・建設DX企業との協業など、コア事業(技術者派遣)以外の領域へ投資を広げることに伴う費用増を織り込んだ計画と読める。

項目FY2025/10 実績FY2026/10 会社予想FY2030/10 目標FY25→FY30 変化
売上収益24,158 百万円29,250 百万円50,000 百万円+25,842 百万円
売上 CAGR(FY25→FY30)15.0% 以上
営業利益2,827 百万円3,010 百万円5,000 百万円+2,173 百万円
営業利益率11.7%10.3%10.0%△1.7pt
ROE14.9%20% 以上+5pt 超
技術者人数(グループ)約 4,117 人約 4,476 人8,000 人+3,883 人

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

この数値目標を分解して考察すると、次の 3 点が浮かび上がる。

第 1 に、技術者人数を 5 年で約 2 倍(4,117 人 → 8,000 人)に拡大する計画であり、これは年平均 14.2% の純増ペースに相当する。FY2026/10 計画では採用 2,500 人・退職率 27.9% を前提としているが、FY2025 実績の退職率 31.1% から約 3pt の改善が織り込まれており、定着率改善の成否が在籍人数目標達成の前提となっている。

第 2 に、売上成長のドライバーは「在籍人数 × 契約単価 × 稼働率」の 3 要素の積として決まる構造である。契約単価は FY2025 実績 519 千円/月で、近年も年 +10 千円前後の漸増が続く。単純計算で在籍人数を 8,000 人、稼働率を 93%、契約単価を 580 千円/月まで引き上げた場合、建設ソリューション事業単体で売上 518 億円規模となり、目標の 500 億円が射程に入る。稼働率の回復と契約単価の緩やかな上昇が成立する限り、売上目標の達成確度は高い。

第 3 に、営業利益率 10.0% 目標は FY2025 実績の 11.7% を下回る設計である。これは中計前半期の成長投資(採用費・人件費の先行)が後半期に完全には回収されない前提か、あるいは建設DX・職人紹介事業の利益率がコア派遣事業よりも低く立ち上がる前提で設計されたものと解釈できる。「利益率 10% 死守」が運営上の下限値であり、当局としては上振れの余地も残しながら保守的に置いていると見るのが妥当だろう。

5-3. 重点施策と進捗

中期経営計画では 4 つの成長戦略が提示されている。① コア事業(技術者派遣)の競争力向上、② 建設DX の推進、③ 職人紹介事業の拡大、④ 生産性向上 — の 4 本柱である。

① コア事業の競争力向上(採用・営業・育成/定着)

コア事業である建設技術者派遣(ワールドコーポレーション)については、採用・営業・育成/定着の 3 プロセスを同時並行で強化する方針が示されている。採用面では母集団形成の多様化(オウンドメディア「セコカンNEXT」、経験者採用、海外新卒採用)、営業面では「採用起点の営業体制」構築と DX 活用による業務効率化、育成/定着面では「ゼロプロ成長サイクル」による資格取得支援と社内検定・キャリアチェンジ制度の導入が掲げられている。FY2025 実績ではゼロプロ成長サイクルを通じて令和 7 年度前期施工管理技術検定で 234 名が合格し、在籍人数に占める資格保有者は約 13%(474 名)に達している。これは育成プロセスの定着を示す実績値として評価できる。

② 建設DX の推進

建設DX事業は、前半期の「協業推進・基盤強化」を経て、後半期に「シナジー発揮」で収益貢献化するロードマップが描かれている。FY2025 では複数の建設DX企業との協業が伸長し、2025 年 10 月にはスカイマティクス社(クラウド型ドローン測量サービス「くみき」を展開)と戦略的業務提携を締結した。具体的な施策として、DX人材育成研修の拡大、関西エリアへの事業拡大、BPO 事業の立ち上げ、ITソリューション事業(ATJC)との連携による建設業界向け ICT 事業の発足が予定されている。建設DX はコア派遣事業とのシナジーが強い領域であり、中計後半期の利益貢献の主役になり得る。

③ 職人紹介事業の拡大

職人紹介事業(コントラフト・全国建設人材協会)は、全国で 3 団体のみが許可を得ている「建設業務有料職業紹介事業」という規制上の参入障壁が強みである。ゼネコン協力会等のパートナーシップ強化により FY2025 の成約件数は堅調に推移したと開示されている。2025 年 11 月からはダイレクトリクルーティングサービス「職人スカウト」を立ち上げ、既存の「ジョブケンワーク」(求人情報サイト)に並ぶ第 2 の柱として育成する方針である。加えて、地場ゼネコン/専門工事会社をターゲットとした人材派遣事業も新規に立ち上げる計画で、既存の大手・中堅ゼネコン向け派遣(ワールドコーポレーション)の対象領域を地場へ拡張する構想である。

④ IT セグメントの上流工程シフト

IT ソリューション事業(ATJC)については、システム開発における上流工程案件の受注獲得に加え、建設業界向け ICT 事業の立ち上げを推進する方針が示されている。FY2026/10 計画では新規採用 254 人、退職率 22.5% 水準が目標値。建設DX 領域での ATJC × ワールドコーポレーションのグループ内シナジーが想定されており、IT セグメントは単独成長よりもグループシナジーの触媒として再定義されつつある。

⑤ グループ全体の生産性向上

中計の成長戦略の柱のひとつとして、グループ全体での生産性向上が掲げられている。社員一人当たりの技術者管理人数の適正化、基幹システム刷新によるマッチング精度向上、DX・AI の活用による業務効率化などが計画されている。

重点施策前半期(FY2026-FY2027)の位置づけ後半期(FY2028-FY2030)の位置づけ
① コア事業の競争力向上営業・採用・育成の基盤強化、稼働率・退職率の回復在籍 8,000 人への拡大、契約単価の緩やかな引き上げ
② 建設DX の推進DX企業との協業推進、DX人材育成、ATJC との建設ICT事業立ち上げDX事業のスケール化、利益貢献本格化
③ 職人紹介事業の拡大「職人スカウト」立ち上げ、地場ゼネコン向け派遣の新規参入ダイレクトリクルーティング・人材派遣の両輪で収益化
④ IT セグメントの上流工程シフト上流工程案件の受注獲得、建設 ICT 事業の立ち上げグループシナジーの触媒としての収益貢献
⑤ グループ全体の生産性向上技術者管理人数の適正化、基幹システム刷新、DX・AI 活用人件費比率の抑制を通じた営業利益率の下支え

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

5-4. キャピタルアロケーション

中期経営計画では、キャッシュアロケーションの基本方針として「中長期的な観点から積極的に成長投資を実行し、持続的な価値向上を図る」「安定配当を軸とした株主還元を優先しつつ、財務基盤の強化を目的に有利子負債の削減に努める」の 2 点が示されている。

キャッシュの創出は「持続的な利益成長によるオーガニックな営業 CF」が基本となる。FY2022-FY2025 の営業 CF は 15.5 億円 → 23.1 億円 → 23.1 億円 → 23.0 億円とほぼ横ばいで推移しており、年間 20 億円規模の安定 CF 創出力を持つ。FY2026 以降はこの創出 CF を成長投資・財務基盤強化・株主還元の 3 方向にバランス配分する方針である。

配分先FY2022-FY2025 実績の方向感中計期間(FY2026-FY2030)の方針
成長投資採用投資・人的資本投資が中心(投資 CF は FY25 で △2.0 億円)採用投資・人的資本投資、DX/IT 投資、拠点拡張/新設投資を積極実行
財務基盤強化有利子負債は FY22 末 72.8 億円 → FY25 末 56.2 億円に削減、ネット有利子負債はほぼゼロ(7.9 億円)に有利子負債の削減を継続、財務基盤をさらに強化
株主還元配当 FY23 95円/FY24 110円/FY25 115円の段階的増配計画期間中は減配を行わず、安定配当を継続
M&A(非計画織り込み)過去 3 件実施(ATJC、全国建設人材協会、CAD/施工図作成事業)建設DX・職人紹介領域の機能拡張を期待できる先が対象。中計の数値目標には織り込まず、成長加速のドライバーとして位置付け

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

特筆すべきは、中期経営計画の定量目標(売上 500 億円・営業利益 50 億円)には M&A を織り込んでいない点である。すなわち、計画達成はオーガニック成長のみを前提としており、M&A が成功すれば数値目標の上振れ余地となる。一方で投資採算・回収期間・のれん比率を含む財務規律を明示しており、過去の M&A(ATJC は 2020 年、全国建設人材協会は 2021 年)がいずれも買収後にシナジーを生んでいる実績から、M&A リスクは相対的に低いと評価できる。

FY2025/10 末時点でネット有利子負債はほぼゼロ(約 7.9 億円)、現預金は 48.2 億円と十分に積み上がっており、成長投資と安定配当を両立できる財務ポジションにある。ROE 20% 以上の目標達成には、純利益の拡大に加えて資本効率の改善(自己資本比率 58.9% の水準からどう動かすか)も焦点となる。現時点では具体的な資本政策(自己株式取得・資本構成の変更等)は開示されていないが、キャッシュの積み上がり次第では中計後半期に追加的な株主還元策が検討される可能性がある、とアナリストとしては見ている。

5-5. 配当政策・株主還元

同社は「株主への還元を第一として、配当原資確保のための収益力を強化し、継続的かつ安定的な配当を行う」ことを基本方針とし、中期経営計画期間中(FY2026-FY2030)は減配を行わず安定的な配当を継続する方針を明示している。

配当実績は上場直後の FY2022/10 はゼロ、FY2023/10 に 95 円で配当を開始し、FY2024/10 が 110 円、FY2025/10 が 115 円と段階的に増配してきた。FY2026/10 会社予想は前期同額の 115 円(中間 55 円・期末 60 円)、配当性向は会社予想ベースで 48.1%、AENTRO 試算ベースでも 48.1%(= 115 / 238.88)となる。過去 3 期の配当性向は 43.6%〜48.2% のレンジで推移しており、50% を意識した実質的な配当性向上限が運用ルールとして機能していると見られる。

項目FY2022/10FY2023/10FY2024/10FY2025/10FY2026/10E
EPS(円)209.88255.16238.74238.88
DPS(円)095110115115
配当性向45.3%43.1%48.2%48.1%
期末株価2,343(4/23)
配当利回り(4/23 終値ベース)4.91%

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

FY2025/10 終値ベースの配当利回りは 4.91% と、東証グロース市場上場企業の中では高水準に位置する。減配をしない方針 × 配当性向 45%前後 × 中計で利益成長を見込む設計という 3 点の組み合わせから、配当の下方硬直性が高く、インカム重視の投資家にとっては収益基盤が相対的に見えやすい銘柄と評価できる。

一方で、FY2026/10 は配当据え置き(115 円)となっており、EPS がほぼ横ばい(238.74 円 → 238.88 円)で推移する計画を織り込んでいる。中計前半期の成長投資優先局面では増配ペースが一時停止する可能性が高く、投資家は「FY2028 以降の増配再開」を織り込むスタンスで見るのが妥当である。

5-6. まとめと評価軸

中期経営計画 "Change and Growth 2030" の全体評価として、以下の 3 点に集約できる。

(i) 数値目標は概ね保守的に設定されている。 売上 CAGR 15.0% 以上は過去 4 期の実績(約 18%)を下回り、営業利益率目標 10.0% は FY2025 実績 11.7% を下回る水準である。ハードルを高くせず、蓋然性を重視した計画設計と読める。ROE 20% 以上が唯一やや野心的な目標であり、これは利益成長と資本効率改善の両輪で達成する構造である。

(ii) 中計の成否は「稼働率」と「建設DX・職人紹介事業のスケール」の 2 点に集約される。 稼働率は FY2025 で 92.6%(△1.6pt)と計画を下回っており、FY2026 でどこまで回復軌道に戻せるかがまず第 1 の試金石となる。稼働率回復が実現すれば、在籍人数の増加を売上に素直に転換でき、中計前半期のトップライン目標(FY2026/10 売上 292.5 億円)の達成確度が高まる。第 2 の試金石は後半期(FY2028-FY2030)での建設DX・職人紹介事業の収益貢献である。現時点では両事業とも成約件数・協業件数は堅調だが、セグメント利益として開示されるほどの規模には達していない。FY2027 〜 FY2028 にかけて両事業が独立した成長ドライバーとして認識できるかが、中計達成の分水嶺となる。

(iii) 株主還元は計画期間中の下方硬直性が高い。 減配を行わない方針と配当性向 45% 前後の運用ルールにより、配当は業績の下振れに対してクッション性を持つ。一方、増配モメンタムは中計前半期に一時停止する見込みであり、株価リターンの主たるドライバーは 増配ではなく利益成長とマルチプル再評価になると見ておくのが実態的である。

投資家の評価軸として、今後 1-2 年の四半期開示で注視すべき KPI は次の 4 点である。① ワールドコーポレーションの稼働率(研修生除く、目標 92.6% → 95% 台への回復)、② 退職率(目標 31.1% → 27.9%)、③ 建設DX事業のセグメント開示(現状は建設ソリューション内に埋没)、④ 職人紹介事業の成約件数と売上貢献額。これらの KPI が中計シナリオに沿って改善するか否かが、本銘柄の中期的な投資判断の分岐点となる。

6. 株価インサイト

本章では、ナレルグループ(以下「同社」)の株価水準を、マーケットデータ・バリュエーション指標・同業他社との相対比較・シナリオ分析の4つの角度から整理する。なお、本レポートのレーティングは No Rating / No Target Price とし、目標株価は提示しない。バリュエーションの是非は読者の判断に委ね、投資家がレンジを読み解くための材料を提示することに主眼を置く。

6-1. 株価の読み方

まず、同社の現在の株価水準と主要マーケットデータを整理する。2026年4月23日終値ベースの情報は以下の通りである。

表1. マーケットデータ(2026/4/23 終値ベース)

項目
株価¥2,343
時価総額約20,800百万円
発行済株式数8,749,318株
PER(trailing)10.02倍
BPS¥1,651
PBR1.42倍
配当利回り4.91%(DPS ¥115)
ROE(FY2025/10)14.9%
営業利益率(FY2025/10)11.7%

出所:各社開示資料・株価データより AENTRO Research 作成

同社は2023年7月に東証グロース市場へ上場した銘柄であり、上場から2年半強が経過した時点での株価形成段階にある。時価総額は約208億円と小型株領域に位置し、流動性は大型同業と比べ限定的である。一方、配当利回り4.91%は東証グロース市場の小型株としては高水準で、インカム型投資家の関心を引くゾーンにある。PER10倍・PBR1.42倍という組み合わせは、後述の同業中央値と比較しても「やや割安」と「ROE対比で妥当」の境界線に位置する。

6-2. バリュエーションの見方

同社のバリュエーションを評価する上で、最も特徴的なのは 「ROE 14.9% × PER 10.0倍」 の組み合わせである。人材派遣業界の上場同業37社の業界中央値(ナレル除く)は PER 12.06倍、EV/EBITDA 6.06倍であり、同社の PER 10.02倍・EV/EBITDA 7.05倍は業界中央値と比べてやや低い PER と、やや高い EV/EBITDA の並びになっている。

この乖離は主として ファイナンスの構造に起因する。同社はワールドコーポレーション買収時にのれん 141億円を計上しており、BS 上の無形固定資産(141億円)が総資産(246億円)の57%を占める。PER は親会社株主帰属利益ベースで計算されるため、のれん償却を行わない IFRS 基準下では低めに出やすい。一方、EV/EBITDA は時価総額に有利子負債を加算する EV ベースで、有利子負債56億円の負担が反映されるため、ややストレッチしてくる。

PBR 1.42倍は、ROE 14.9% を前提に「資本コストを上回る利益創出」を織り込んだ水準である。仮に資本コストを8%と置くと、ROE–CoE スプレッドは約7ポイントとなり、PBR が1.4倍近辺まで評価されるのは理論的にも整合する。ただし、FY2026/10 会社予想の営業利益率は10.3% と FY2025 の11.7%から微減が見込まれており、中計前半期(FY2026-2027)の成長投資先行フェーズでは ROE も一時的に鈍化する可能性がある。PBR が1.4倍を上方に押し上げるには、中計後半期(FY2028-2030)で建設DX・職人紹介事業の利益貢献が具体化するかがカギとなる。

配当利回り4.91% は、業界内でも上位クラスの水準である。FY2025/10 の DPS ¥115 は配当性向約48% に相当し、EPS の8割超を配当と成長投資に振り分ける設計と読める。ネット有利子負債は FY2022 の49.9億円から FY2025 の7.9億円まで急速に圧縮されており、財務の健全性はもはや懸念材料ではない。現在のバランスシートは、むしろ「余剰キャッシュをどう成長原資に振り向けるか」が問われるフェーズに移行している。

6-3. ポジティブ・シナリオ

同社の株価を押し上げうる構造的な追い風として、以下3点を整理する。

① 技術者供給不足の構造的追い風

日本の建設技能労働者は、総務省労働力調査ベースで2020年代後半にかけて減少トレンドが続く見通しである。2030年にかけて団塊世代の大量退職が進む一方、若手入職者は慢性的に不足しており、建設業界は 「需要は堅調だが供給が枯渇する」 構造にある。同社は未経験の新卒・第二新卒層を自社採用し育成するモデルのため、業界全体が「技術者を奪い合う」局面でも、供給サイドを自前で作れる希少なプレイヤーである。この構造的優位が評価されれば、PER は業界中央値(12.06倍)に鞘寄せする余地がある。

② 稼働率回復余地

FY2025/10 の建設ソリューション稼働率は92.6%(前期比△1.6pt)と低下した。これは採用を年+10%ペース(採用数1,985人)で続けた結果、配属までのリードタイムが一時的に延びたことが主因である。IT ソリューション稼働率も92.2%と、ピーク時より1〜2pt 低下している。仮に稼働率が94〜95%水準に戻れば、売上と利益率の双方にテコが効く。建設ソリューション売上216億円・営業利益22.5億円の構造下で、稼働率1ptの改善は粗利ベースで概ね2億円規模のインパクトを持つ。

③ 建設DX・職人紹介の隣接領域オプション

中計 "Change and Growth 2030" の後半期(FY2028-2030)では、子会社 Contraft(建設DX)とジョブケンワーク(職人紹介)が利益貢献に転じる想定である。これらは現時点では開示 KPI も限定的で、収益バッファはほぼゼロだが、派遣モデルの延長線上にある「マッチング課金」「SaaS 課金」型へと収益構造をシフトさせる潜在性を持つ。ストック型・プラットフォーム型の売上が現れた瞬間、同社の EV/EBITDA マルチプルは人材派遣のレンジ(6〜8倍)から IT プラットフォームのレンジ(10〜15倍)に移動しうる。

ポジティブ要因
技術者供給不足の構造的追い風
建設業の技能労働者不足・ITエンジニア不足が2030年にかけて加速。未経験者を内製育成で供給できる同社の仕組みは希少性が高い
稼働率回復余地
FY2025稼働率92.6%(建設)は前期比△1.6pt。採用プロセス改革と営業力強化で94-95%水準への回復余地があり、直接的な利益改善ドライバとなる
建設DX・職人紹介の隣接領域オプション
Contraft・ジョブケンワーク・スカイマティクス提携等により、派遣単価の天井を超える付加価値型サービスへ拡張する余地
ネガティブ要因
採用単価上昇・人件費インフレ
建設・IT両領域で人材獲得競争が激化。採用費と人件費の上昇は利益率を構造的に圧迫するリスク
退職率高止まり
FY2025退職率31.1%は計画27.5%を未達。若年層の流動性が高く、育成コストの回収前に離脱する構造的課題
建設市場のサイクリカル性
主力の建設ソリューションは建築・再開発投資に連動。住宅・ビル需要の減速局面では稼働率と単価の両面で圧力がかかる

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

6-4. アンチテーゼ

一方で、以下3点は同社の投資テーゼを毀損しうるリスクである。

① 採用単価上昇・人件費インフレ

未経験者を採用する入口戦略は、採用チャネル(自社メディア・求人広告)のコストが増加局面にある。FY2025/10 の販管費は34.1億円(前期比+5.8億円、+20.5%)と、売上成長率(+11.8%)を大きく上回って拡大した。採用単価が構造的に上がり続ければ、育成期間中の未稼働コスト(研修中・配属待機中の人件費)が利益を圧迫する。FY2025 の営業利益が前期比△9.1%に転じた主因もここにある。

② 退職率31.1%の高止まり

建設ソリューションの退職率31.1%(FY2025/10)は、業界標準と比べても高水準である。未経験採用の性質上、現場配属後の早期離職は一定程度織り込むべきだが、31%の退職率を埋めるために毎年1,985人を採用する構造は、実質的に「採用・育成コストを掛け続けないと在籍人数を維持できない」ことを意味する。この構造が続く限り、営業利益率は採用投資の先行に引っ張られやすい。退職率の低下(25%台まで)は、投資テーゼの成否を握る最重要 KPI である。

③ 建設市場自体のサイクリカル性

同社の売上89.5%は建設ソリューションに由来する。建設投資は長期トレンドとしてはリニューアル需要・国土強靭化・半導体工場建設などで底堅いが、景気後退局面では設備投資凍結・工期延伸などの影響を受ける。契約単価は FY2025/10 で月額519千円(前期比+10千円)と上昇基調だが、景気後退期には単価交渉の主導権が派遣元から派遣先に戻りやすい。製造業派遣大手(UT、オープンアップ)が過去にサイクル変動で業績が振れた歴史を踏まえると、同社も 建設サイクルに連動するベータを一定程度抱えると見るべきである。

6-5. 同業比較

同業比較の対象は、人材派遣業界の上場同業で、規模・収益性・上場市場が比較可能な企業として、技術者派遣・製造業派遣・研究者派遣の主要8社を選定した。併せて業界37社の中央値・平均値を最下段に置く。

表2. Peer 比較テーブル(直近本決算ベース)

社名コード売上高(百万円)売上YoY純利益率時価総額(百万円)PER(倍)EV/EBITDA(倍)
ナレルグループ916324,159+11.8%8.6%21,15810.147.05
メイテックGHD9744133,068+4.8%9.6%247,80619.2510.06
UTグループ2146194,748+16.6%4.6%113,39012.068.41
オープンアップG2154187,954+8.5%6.7%159,57611.747.50
WDB HD247551,137+3.7%6.0%30,7929.651.92
アルプス技研464152,650+5.6%7.6%53,40212.686.49
アルトナー216312,047N/A10.5%20,58616.359.08
キャリアデザインC241018,646+5.1%5.9%13,51911.754.30
業界中央値(40社)12,066+8.5%3.4%8,61612.066.06
業界平均(40社)39,820+9.7%2.3%25,32316.573.15

出所:各社開示資料・株価データより AENTRO Research 作成

この表から読み取れるポイントは 3 点ある。第一に、同社の純利益率 8.6% は業界中央値 3.4% の約 2.5 倍、平均 2.3% の 3.7 倍であり、人材派遣業界の中では上位の収益性を維持している。第二に、売上成長率(YoY)+11.8% も業界中央値 +8.5% / 平均 +9.7% を上回り、収益性と成長性の両面で上位に立つ構造にある。第三に、売上規模 241 億円は業界中央値 120 億円のほぼ倍、平均 398 億円の 6 割水準で「中堅上位」に位置するサイズである。

一方で、PER は同社 10.14 倍に対し業界中央値 12.06 倍と、収益性・成長性で勝る同社が業界中央値より低いマルチプルで評価されている。これは(a)中期経営計画前半期(FY2026-2027)の減益フェーズを織り込んだ結果、(b)建設業界のサイクリカル性への警戒、(c)退職率 31.1% の改善未達、の 3 点が重石となっている可能性が高い。EV/EBITDA 7.05 倍は業界中央値 6.06 倍を上回るが、これはのれん 141 億円を抱える財務構造に由来する技術的な上振れであり、本業の収益性が劣位にある訳ではない。

同業の中で最も高い PER を維持するのはメイテック GHD(19.25 倍・純利益率 9.6%)で、正社員雇用による安定性と長期ブランドが評価されている。同社が中計後半期(FY2028-2030)に利益貢献を具体化し、成長モードへ復帰したタイミングで、メイテック寄りのマルチプルへシフトする余地が視野に入る。

6-6. 今後の注目KPI・カタリスト

最後に、投資テーゼの進捗を測る上で注目すべき四半期 KPI と、マルチプル拡張のカタリストを整理する。

表3. 注目KPI・カタリスト一覧

分類項目現状値(FY2025/10)注目ポイント
収益 KPI建設ソリューション稼働率92.6%(△1.6pt)94〜95%への回復が営業利益率反転の鍵
収益 KPIIT ソリューション稼働率92.2%安定推移を維持できるか
人材 KPI退職率31.1%25%台への低下が中長期の利益率改善に直結
人材 KPI採用数1,985人(+10.0%)採用単価上昇時にペースをどう調整するか
単価 KPI契約単価(建設)月額519千円(+10千円)景気後退時の単価維持力
事業 KPIContraft 売上・利益開示未開示(調整額内)単独セグメント開示への移行タイミング
事業 KPIジョブケンワーク KPI未開示登録職人数・マッチング件数
財務 KPIネット有利子負債7.9億円(△8.4億円)余剰キャッシュの成長投資・還元への振り向け
還元 KPI配当性向約48%(DPS 115円)中計下での還元方針アップデート
中計進捗"Change and Growth 2030"FY2026-2027 成長投資優先後半期の利益貢献ストーリーの具体化

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

四半期開示のたびに最優先でチェックすべきは、稼働率・退職率・採用数の3指標である。稼働率92%台の下げ止まりと反転、退職率の緩やかな低下、採用ペースの持続の3点が揃えば、市場は中計後半期の利益回復ストーリーを先行して織り込み始める可能性がある。逆に、稼働率が90%を割り込み退職率が33%を超えて上昇する局面では、「高収益人材派遣企業」から「採用コスト型成長企業」への評価シフトが起こりうる。

中計 "Change and Growth 2030" の前半期(FY2026-2027)は、投資先行で収益性が一時的に圧迫されるフェーズである。この期間に株価が大きく動くよりも、中計後半期の利益貢献ストーリーを四半期ごとに積み上げていけるかが真の論点となる。Contraft・ジョブケンワークの KPI 開示、セグメント変更、M&A 発表などは、マルチプル再評価の主要カタリストとなりうる。

なお、本レポートは No Rating / No Target Price の立場を維持し、同社株価の方向性に関する結論は示さない。読者には、本章で整理したポジティブ・シナリオとアンチテーゼの両面、および四半期 KPI の動向を踏まえ、各自の投資判断材料として活用いただきたい。

7. Appendix

7-1. 損益計算書(PL)

単位:百万円。会計基準は IFRS。FY2026/10E は会社業績予想(2025 年 12 月開示)。売上原価・販管費・売上総利益の FY2026/10E は開示粒度の関係で記載しない。

科目FY2022/10FY2023/10FY2024/10FY2025/10FY2026/10E
売上高14,54117,99521,60924,15929,250
売上原価10,31012,82615,66817,920
売上総利益4,2305,1695,9416,2387,400
売上総利益率(%)29.128.727.525.825.3
販売費及び一般管理費2,1902,7002,8303,410
EBITDA2,2782,7143,3723,1123,310
営業利益2,0402,4693,1112,8273,010
営業利益率(%)14.013.714.411.710.3
税引前当期利益1,8522,4763,0602,7592,940
親会社株主に帰属する当期純利益1,2431,7412,1882,0872,090
純利益率(%)8.59.710.18.67.1
EPS(円、基本)209.88255.16238.74238.88

出所:有価証券報告書および決算短信より AENTRO Research 作成

売上高は FY2022/10 の 14,541 百万円から FY2025/10 の 24,159 百万円まで 3 期で 1.66 倍に拡大し、CAGR は 18.4%。会社予想の FY2026/10E 29,250 百万円(+21.1%)が達成されれば、FY2022→FY2026 の 4 期 CAGR は 19.1% と、技術者派遣業界の需要拡大と在籍人数の積み増しに支えられた二桁成長が継続する計算となる。一方で利益レベルは、FY2024/10 の営業利益 3,111 百万円をピークに FY2025/10 は 2,827 百万円(△9.1%)、営業利益率は 14.4%→11.7% へ 2.7pt 低下した。中期経営計画初年度(FY2026)の成長投資フェーズで利益は横ばい圏、採用した技術者の稼働が立ち上がる FY2027/10 以降の再加速を会社側は想定している。

7-2. 貸借対照表(BS)

単位:百万円。会計基準は IFRS。

科目FY2022/10FY2023/10FY2024/10FY2025/10
流動資産合計4,8777,0617,9278,469
現預金同等物2,2844,0834,5174,822
固定資産合計15,27915,44415,69116,093
有形固定資産475528776969
無形固定資産(うちのれん)14,09914,10314,09514,118
投資その他の資産7048148201,005
資産合計20,15622,50523,61724,562
流動負債合計5,5336,2876,5176,897
固定負債合計4,6904,0403,6603,186
負債合計10,22310,32810,17710,083
有利子負債残高7,2786,6136,1485,616
ネット有利子負債(除く現預金・短期性有価証券)4,9942,5301,631794
純資産9,93312,17713,44114,479
自己資本比率(%)49.354.156.958.9
BPS(円)1,203.651,445.171,541.061,654.85

出所:有価証券報告書および決算短信より AENTRO Research 作成

資産サイドの最大の特徴は無形固定資産 14,118 百万円(総資産の 57.5%)である。うち大半を占めるのれん 14,075 百万円は、2020 年の持株会社体制移行時のワールドコーポレーション等の子会社化に伴って計上されたもので、IFRS 適用下で非償却資産として保持される。減損兆候は認められていない。負債サイドでは有利子負債が FY2022 の 7,278 百万円から FY2025 の 5,616 百万円へ △22.8% 減少し、同期間の営業 CF 拡大と相俟ってネット有利子負債は 4,994 百万円から 794 百万円へ △84.1%、実質ネットキャッシュに近い財務体質へ転換しつつある。自己資本比率も 49.3%→58.9% へ 9.6pt 改善し、中期経営計画で掲げる成長投資(建設 DX・職人紹介事業)を支える財務余力は確保されている。

7-3. キャッシュ・フロー計算書(CF)

単位:百万円。会計基準は IFRS。

科目FY2022/10FY2023/10FY2024/10FY2025/10
営業活動によるキャッシュ・フロー1,5542,3142,3102,298
投資活動によるキャッシュ・フロー△17622△6△198
財務活動によるキャッシュ・フロー△1,249△537△1,870△1,923
フリー・キャッシュ・フロー(営業+投資)1,3782,3362,3042,100
現金及び現金同等物の期末残高2,2844,0834,5174,822

出所:有価証券報告書および決算短信より AENTRO Research 作成

営業 CF は FY2023/10 以降、年 22〜23 億円の水準で安定推移している。売上が FY2023 の 175 億円から FY2025 の 241 億円へ +38% 拡大したにもかかわらず営業 CF の絶対額がほぼ横ばいとなっているのは、FY2025 の営業利益減益(成長投資としての採用費・人件費先行投入)と運転資本拡大の影響である。投資 CF は一貫して年 20 億円以下・売上比 1% 未満と小規模で、物理資産への資本投下をほとんど必要としないアセットライト・ビジネスであることを裏付ける。結果、フリー CF は 4 期平均で約 20 億円の黒字を安定確保し、大半が長期借入金の計画返済(年 7.14 億円)と配当(FY2025 で 10.04 億円)に充当されている。期末現金同等物は 4 期で 2 倍強(22.84 億円→48.22 億円)に積み上がり、ネット有利子負債/EBITDA は 2.19 倍→0.26 倍へ急改善した。

7-4. 主要KPI

ナレルグループの収益構造は、技術者派遣ビジネスの基本式(在籍人数 × 稼働率 × 契約単価)に素直に帰着する。ここでは建設ソリューション事業を担うワールドコーポレーション、ITソリューション事業を担うATJCの両セグメントについて、IR資料で開示される企業固有KPIを時系列で整理する。加えて、参考として連結ベースの財務KPI(収益性・資本効率・安全性・還元)も合わせて掲載する。

建設ソリューション(ワールドコーポレーション)

KPIFY2024/10FY2025/10
在籍人数(期末、人)3,2393,687
採用数(通期、人)1,8041,985
退職率(%、過去12ヶ月移動)29.131.1
通期平均稼働人数(人)2,8183,136
通期平均稼働率(%、研修生除く)94.292.6
月次平均契約単価(千円/月)510519

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

FY2025は在籍人数が+448人、採用数が+180人と積み上がった一方、プロジェクトの切替に伴う待機と首都圏での営業苦戦により稼働率は94.2%→92.6%に低下、退職率は29.1%→31.1%に上昇した。契約単価は+9千円と前進しているが、ボリューム(在籍)の拡大と質(稼働率・退職率)の両立は道半ばである。

ITソリューション(ATJC)

KPIFY2024/10FY2025/10
在籍人数(期末、人)404430
採用数(通期、人)151161
退職率(%、過去12ヶ月移動)22.323.6
通期平均稼働人数(人)342362
通期平均稼働率(%、研修生除く)92.2
月次平均契約単価(千円/月)515524

出所:決算説明資料・決算短信より AENTRO Research 作成

ATJCは在籍+26人、稼働人数+20人と規模を緩やかに伸ばしつつ、上流工程案件の獲得により契約単価が+9千円に上昇。稼働率は前期比△1.7ptの92.2%と建設同様に軟化したが、単価改善でカバーする構図である。

財務KPI(参考・連結)

指標FY2022/10FY2023/10FY2024/10FY2025/10FY2026/10E
ROE(%)13.415.717.114.9
ROA(%)6.38.29.58.7
ROIC(投下資本、%)8.49.611.710.9
自己資本比率(%)49.354.156.958.9
D/Eレシオ(倍)0.730.540.460.39
配当性向(%)45.9543.5648.20

出所:有価証券報告書より AENTRO Research 作成

FY2024をピークにROE・ROIC・営業利益率はいずれも一段下がったが、依然として建設派遣業界の平均対比では高水準である。自己資本比率は4期連続で改善し58.9%、D/Eレシオは0.39倍まで低下し、のれん比率も1倍を下回った(0.97倍)。財務レバレッジには拡張余地が残る。

在籍人数の拡大はFY2025も機能しており、売上収益+11.8%のドライバとなった。ただし、中期KPIの中核は稼働率と退職率であり、FY2025はこの2つがいずれも悪化して減益要因となった。FY2026は採用ペースの加速に加え、この稼働率・退職率の回復が中期経営計画初年度の進捗を決めるKPIとなる。

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